*** 回想 「絵と声は頭の中」***
一昨年11月中旬。久しぶりに暖かい日差しを浴びながら街を歩く。太陽を背にしながら東武宇都宮を右折し、クリスマスの飾りを早くも見上げオリオン通りへ。左手に県庁、右手に市役所の交差点、信号が赤なのに笑いながら駆け足で渡って行く女子高生たち。それから少し歩いて、二荒山神社を視界に捉え左折する。パルコ前では、子供たちが襷に鉢巻姿で、額からはじける汗を振り払い和太鼓を打っている。小さな体から繰り出される華麗な撥さばきは、艶がある情の深い音を叩き出す。その躍動は空気の歪を生み、私の体の隅々まで沁み入り、安らぎをもたらす。強弱、長短の音の連鎖が、何故こんなにも心を打つのだろうか。本当に不思議だ。
心地よい時を過ごした後、自動ドアからラパーク長崎屋に入る。一階は食料品売り場。右手のKEYコーヒー喫茶は、老人の集いの場で今日も満席だ。元気な奥様たちと行き交いながら、エスカレーターで5階へ。いつものように右手に周り、雑誌コーナーで立ち読みを開始。ふと何気なく顔をあげた時、視線が文庫本コーナーに釘付けとなる。そのまま雑誌を本棚に戻し、何故か引き寄せられるように足が向く。確か文庫本を最後に読んだのはかなり昔のような気が。最後に読んだのは吉川英治の3部作と勝手に決めた「宮本武蔵」「新書太閤記」「三国志」・・・。と思いを廻らせていたら、一冊の本が目に止まる。「99%の誘拐」岡島二人、第十回吉川英治文学新人賞受賞作、2005年版の「この文庫がすごい」1位。久しぶりに本を読んでみようと手にした。
ここから何かに取り付かれたのか、生活リズムが大きく変わる。まずは文庫本の岡島二人を読み漁る。会社の忘年会では勢い余って宣言。「来年の目標は、本100冊読みます!」何事にも三日坊主なのにと直ぐに反省したが、なぜか今回は自分でも信じられない。
次は何故か嬉しい、年も誕生日も同じ東野圭吾。私の独り言を聞いた彼女が振り向いた。『その他は、全然違うでしょ!』男の些細な喜びもすぐに打ち消されたが、それはそうだと頭を垂れた。その後、井上夢人、宮部みゆき、横山秀夫、桐野夏生、真保裕一、渡辺容子、中嶋博行、有栖川有栖、などを読み込む。ミステリーやハードボイルドがほとんどだ。
宮部みゆきの模倣犯を読んでいる時だ。余りにも人を殺し続けるので、「女は怖い!」とぼそぼそと言った瞬間、彼女が私の瞳を覗き込んだ。『何か言った?』私は一瞬膠着し頚椎に電気が走ったが、首をゆっくり振り唾を飲み込み呟いた。「いいえ」
今、はまっているのが大沢在昌だ。新宿鮫シリーズは凄い! 現在まで約1年4ヶ月で180冊余。我ながらよく読んだなと満足していたら、ふと彼女が昼寝から目を覚ました。『内容しっかり解っているの? 漢字飛ばしていない?』「そんなことは無い」と言いそうになったが、視力2.0の心眼に感服し口を噤んだ。
テレビは、絵も声(音)も文字も提供してくれる。マンガは、絵と文字。声は自分の頭の中。本は、文字だけ。絵と声は頭の中。イマジネーションアップなんて思い、自分自身の考えに頷きながら聞いてみた。
「本は、何か役立っているのだろうか?」
『少しはあるんじゃない。BOOKOFFに持っていけばお金になるしさ。』
「うーん上手い! 座布団一枚!」
「感心している場合ではない! 負けるもんか!」心の中で囁いた。
作成:2007/02/28
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